●ヴォーリズ建築「ツッカーハウス見学会」の参加レポート

建築物めぐり

 滋賀県近江八幡市にあるヴォーリズ建築「ツッカーハウス」の見学会に参加させていただきました。
 また付属建物である「ヴォーリズ記念病院礼拝堂」「五葉館」も併せて見学させていただきました。
 これら名建築についてレポートします。

 ※なお、見学会はすでに終了しています。

「ツッカーハウス」とは

ツッカーハウス正面 2023/5/20

建築の歴史

 ツッカーハウスとは、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズさんが設計した結核療養所です。
 1918年(大正7年)に完成しました。
 当時、不治の病であった結核を治すための療養所として建てられました。
 ヴォーリズさんは自身の建築事務所で働いていた遠藤観隆さんという方が肺結核で亡くなられたことなどをきっかけに結核撲滅の志しを持つようになりました。
 そしてヴォーリズさん自らが募金活動し、また設計をしてツッカーハウスは完成しました。
 同時に小病棟として「五葉館」も建設され、当時は近江療養院という名前で開設されました。
 その後1950年代にストレプトマイシンが発明されて、結核が不治の病ではなくなったため、ツッカーハウスは結核療養所としての役目を終えました。

名前の由来

 ツッカーハウスという名前は、メアリー・ツッカー女史の母の名前が由来となっています。
 メアリー・ツッカー女史はニュージャージー州の篤志家で、彼女はヴォーリズさんの結核撲滅の志しに共感し、多額の寄付をしました。
 その彼女が愛した亡き母の名前から「アンナ・ダンフォース=ツッカー記念館」と名付けられました。
 療養所としての役目を終えてからは、ヴォーリズ記念病院「本館」と名前を変え、そして現在は「ツッカーハウス」と呼ばれています。

ツッカーハウス正面玄関 2023/5/20

「五葉館」とは

五葉館 2023/5/20

 ツッカーハウスに併設して建てられたのが「五葉館」です。
 当時は五葉館という名前はなく、ツッカーハウスに付属する小病棟でした。
 この当時、退院間近な患者さんのみが入院できる病棟だったことから、ほかの患者さんにとってこの建物は希望の象徴だったそうです。 
 療養所としての役目を終えてからは、ヴォーリズ記念病院「希望館」と名前を変え、そして現在は「五葉館」と呼ばれています。
 その名の由来は、この建物の形状にあります。
 この建物は5つの病室が5方向に突き出していて、上から見ると楓の葉のような形状をしています。
 「五葉館」と呼ばれるのはこのためです。

「ヴォーリズ記念病院 礼拝堂」とは

ヴォーリズ記念病院 礼拝堂 2023/5/20

 「ヴォーリズ記念病院 礼拝堂」は、療養所で亡くなられた方々の霊を慰めるために1937年(昭和12年)に建てられました。
 紹介した3つの建物のうち唯一現在も使用されている建物です。
 現在も毎週日曜日に礼拝が行われています。

ツッカーハウスの特徴

ツッカーハウス正面 2023/5/20

「20度」の理由

 ツッカーハウスは、八幡山を背にして南向きに建てられています。
 しかし実は20度だけ顔を東に向けて建っています。
 その理由は、日照の方角やその時間を計算し、冬至期に最大熱量が得られるように工夫されているためです。
 この工夫のおかげで、建物そのものが日光消毒され、また風通しも良い造りになっています。

構造は?


ツッカーハウス正面 2023/5/20

 ツッカーハウスは、木造3階建てです。
 しかしよく見ると、3階の上にロフトがあります。
 見方によっては4階建てになります。
 また設計図を読み解くと地下室があったことが分かります。
 (※設計図は見学会でパネル展示されていました。) 
 つまりツッカーハウスは5層の建物だということが分かります。
 今回の見学会では1階と2階のみ見学が可能で、ほかは立ち入り禁止でした。
 今後これらも見学できればなと思います。

 建物の東西の端には南向きの日光浴室が設けられています。

日光浴室 外観 2023/5/20

 

日光浴室 内観 2023/5/20

 

ツッカーハウス1階 東西に延びる廊下 2023/5/20


ツッカーハウス2階病室 2023/5/20

ツッカーハウス2階病室からの景色 2023/5/20

ツッカーハウス2階 階段室 2023/5/20

五葉館の特徴

 五葉館の最大の特徴は、その形状です。
 三畳ほどの広さの病室が5つあり、それが5方向に広がっているような配置になっています。
 まるで手のひらを広げたような間取りです。
 この間取りのおかげで各部屋は3面に窓が設けられていて大変明るい造りになっています。
 森の中にあるため、部屋にいても自然を感じることができます。
 またこの建物は木造平屋建ての高床式になっています。
 高床式になっている理由は、裏山から水や土が流れてきた場合、それらを受け流せるようにするためです。

五葉館 正面 2023/5/20

五葉館 高床式 2023/5/20

五葉館 病室 2023/5/20

礼拝堂の特徴

 礼拝堂は山の斜面に建てられています。
 石の階段を少し登ったところに正面出入口があります。
 しかし現在は正面から入ることはできず、脇の階段を登って側面の出入口から入るようになっています。

礼拝堂 正面 2023/5/20

礼拝堂 脇階段 2023/5/20

 3つの建物のうち唯一、天井の木組みを見ることができます。
 木組みの一部がくびれていたり、飾りのある金物が使われていたりして、木組みそのものが礼拝堂を装飾しています。

礼拝堂 内観 2023/5/20

礼拝堂 木組み 2023/5/20

「ツッカーハウスプロジェクト」について

 このたびの見学会は、NPO法人「ヴォーリズ遺産を守る市民の会」によって開催されました。
 この市民の会は、近江八幡市を中心としてヴォーリズ建築の保存・再生などを目的とし2013年(平成25年)に発足されました。
 そしてこれまで「ツッカーハウスプロジェクト」として、建物を所有する公益財団法人近江兄弟社と協力してツッカーハウスと五葉館の改修工事を行ってこられました。
 ツッカーハウスと五葉館は、改修工事が始まるまでの約20年間空き家状態で保守もされずに傷みが激し状態だったそうです。
 工事は、1期は中央大屋根工事、2期は窓枠と玄関ポーチ、3期は院長室と五葉館、4期は東西大屋根、5期は耐震補強や室内仕上げなどを行い、約10年かけて改修されました。
 これら工事はクラウドファンディングなどで集めた寄付金を基に行われたそうです。
 そして改修が終了しこのたび令和5年5月に一般に見学会が開催されるに至りました。
 ヴォーリズ遺産を守る市民の会 (wordpress.com)

調度品について

 3つの建物を見学して、建物だけでなく、調度品もまた素晴らしく味わい深いモノばかりでしたのでご紹介しておきます。

ツッカーハウス

ツッカーハウスのドアノブ 2023/5/20

ツッカーハウス 日光浴室格子窓 2023/5/20

ツッカーハウス待合室の棚 2023/5/20

ツッカーハウス事務室の窓口 2023/5/20

ツッカーハウス治療室棚 2023/5/20

ツッカーハウス 電気スタンド 2023/5/20

ツッカーハウス 木の椅子 2023/5/20

五葉館

五葉館 ドア 2023/5/20

五葉館 病室の椅子 2023/5/20

五葉館 木製折りたたみ椅子 2023/5/20

五葉館 木製チェア 2023/5/20

五葉館 病室のベッド照明 2023/5/20

五葉館 病室両開き窓 2023/5/20

五葉館 病室両開き窓 外観 2023/5/20

五葉館 鏡 2023/5/20

礼拝堂

礼拝堂 シャンデリア 2023/5/20

礼拝堂 格子窓 2023/5/20

礼拝堂 見台 2023/5/20

最後に

 このたびの見学でヴォーリズ建築の設計、工夫、デザインの素晴らしさを再認識させられました。
 また建築自体もさることながら、それを後世に残すための活動に心を打たれました。
 私に解説してくださった方は、過去には一般民家のヴォーリズ建築が取壊されたもあったそうで残念な心の内を語って下さいました。


 ヨーロッパなどの旧市街では古い建物であっても壊さず内装をリノベーションするなどして永く使われています。
 こうして文化や景観が守られています。建物を残すことは文化そのものを後世に残すことだと感じました。
 

コメント