●「ふじ」が投げたミニカー

● アート

 NHKで、1978年と1980年に放送されたテレビドラマ【阿修羅の如く】で、四姉妹の母「ふじ」が壁に投げつけたミニカーを取り上げてみたいと思います。

ミニカーが登場するシーン

 竹沢家の四姉妹は、年老いた父「恒太郎」に愛人がいたことを知ります。姉妹は、母のことを気遣い、そのことを母「ふじ」には秘したまま、その対策を講じようとします。

 ある日、「ふじ」は茶の間でひとり童謡「かたつむり」をのんびり歌いながら、夫「恒太郎」のコートにブラシをかけていました。「ふじ」がコートを持ち上げると、コートからミニカーがひとつ転がり落ちました。

 「ふじ」は、童謡「かたつむり」を歌ったまま、ミニカーを見つめ、2,3度走らせる真似をしました。そして、いきなり、ミニカーをつかんで襖(ふすま)に投げつけたのです。

 ミニカーは、頭から襖に突き刺さり、食い込んでしまいました。

「ふじ」がミニカーを投げた理由

 四姉妹は、母「ふじ」が父「恒太郎」に愛人がいることを気づいていないと思っていました。

 しかし、このシーンでは、ミニカーが突然現れたにもかかわらず、「ふじ」は童謡を歌ったままで、動揺していません。このことから、すでに「ふじ」は恒太郎に秘め事があることに気づいていたことが分かります。

 「ふじ」が恒太郎の秘め事について、どこまで知っていたのかは分かりません。愛人の存在は知っていたのか、愛人の子の存在は知っていたのか。もしかしたら「ふじ」は薄々気づいてただけの懐疑状態だったのか分かりません。

 しかし、このシーンで「ふじ」は怒りが爆発して、ミニカーを壁に投げつけています。

 「ふじ」の目の前にミニカーという現物があらわれたことで、「ふじ」の懐疑心が現実に変化した怒りなのかも知れませんし、または愛人だけでなく子がいたことを知ったことの怒りなのかも知れません。

 いずれにせよ、「ふじ」は、夫「恒太郎」には秘め事があることを知っていて、そのことについて怒りの感情があり、その感情からミニカーを襖に投げたことが分かります。

 加えて「ふじ」は、ひとりで茶の間にいるときにミニカーを投げつけているこから、その怒りの感情は自分だけのものにしており、夫や娘たちには秘していることが分かるのです。

【省二のミニカー】を観察

 「ふじ」が投げたミニカーは、怒りの象徴となりました。誰のモノなのか明かされていませんが、愛人の子「省二」のものでしょう。ここでは【省二のミニカー】と名付けることにします。

 私は、この怒りの象徴である「省二のミニカー」に興味を持ち、同じモノを入手することにしました。

 ドラマで出ていたものとそっくりなミニカーがメルカリで出品されていたので購入しました。送料込みで1,000円でした。

 実際に手にしてみて、同じ商品だと確信しました。

実際のサイズ

 

  • 全長 11.5cm
  • 幅 5.5cm
  • 高さ 3.9cm
  • 重さ 127g
  • 新正工業株式会社 製
  • SHINSEI MINI POWER シリーズ ジェットマシン ポルシェ ターボ(ポルシェ マルティニ)
  • 赤色
  • 1/37 スケール

実際の存在感

 恒太郎のコートから、転がり落ちた「省二のミニカー」ですが、実際の大きさは握り拳ほどあり、重さは127グラムもあります。

 これはスマホぐらいの重さです。文庫本で例えるなら森瑤子さんの「情事」くらいの重さです。※例えが下手ですみません。

 ちなみに、文庫本「阿修羅のごとく」の重さは209グラムでした。

 これほどの重量がある物を、コートのポケットに入れたままにしておくなんて、恒太郎は不注意が過ぎます。

 そして、「ふじ」にしても、これを襖に投げつけるなどということは、跳ね返りのおそれがあり、危険なことをしているわけです。

教訓としての「省二のミニカー」

 「省二のミニカー」は怒りの象徴ですが、一方で私は「悪事は万事見抜かれている」という象徴として捉えています。 私にとって、赤色のミニカーは、襟を正すきっかけになっているのです。

 そこでこの際、象徴を具体化することにしました。

 まず、100円ショップで、襖の代わりとして厚紙と壁紙を買ってきました。

 厚紙の中央に穴を開けて、ミニカーを埋め込みました。仕上げに壁紙を貼って、額に入れてみました。

映像のイラスト

窓に飾ってみました。

さいごに

 ドラマ「阿修羅のごとく」のオープニングは阿修羅についての解説があります。そこで、阿修羅は「怒りの生命の象徴」として紹介されています。

 省二のミニカーは赤く重量のあるもので、「ふじ」の怒りの象徴として作品に登場します。

 興福寺の阿修羅像も顔は赤みを帯びています。https://www.kohfukuji.com/property/b-0009/

 実際のシナリオには、「ふじ」がミニカーを投げる際、「おだやかな顔が、一瞬、阿修羅に変わる。」(※太田光著、向田邦子の陽射し参照)と書かれているそうです。 

 白い襖に赤いミニカーが刺さっている様は、見る者に強烈な印象を与えます。

 私は、省二のミニカーを額縁に入れて窓際に飾ってみましたが、これでは部屋が落ちきません。

 結局、私はこれを飾るのはやめました。

 

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